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つぶやきは言霊となって

呪い代行呪鬼会

「死んじゃえばいいのに 」私がそう 呟いたのは、 完全に 無意識下の ことだった 。同期の ミスを 押し付けられ、 大勢の 前で上司から 怒鳴り散らされた 。違います、なんて 言える 雰囲気ではなく 、大人として 静かに 叱責を 受けたけれど、 今落ち着いて 振り返ると 怒りしか湧いてこない。上司の 方だって 、 ほとんど八つ当たりのような雰囲気を 感じた 。どうせ、 プライベート でなにかイラつくことでもあったのだろう 。

極めつけは、 同期からの 「災難だったね」なんて 言葉だ。誰のせいだと その場で怒鳴ってやりたくて 、だけどそれこそ八つ当たりだと 感じ る 常識が残っていたせいで発散しそこねた 怒りは、 私の 胸の 奥でぐるぐる と 渦巻いている 。

苛立ち の せいか睡魔は訪れない。私は真っ暗闇の中で布団に 潜り込んだまま手許のスマートフォンでネットサーフィンをしていた 。特に調べたい情報があったわけではなく 、偶然出てきた ネットニュースのページを読んでは、 関連ページへと どんどん移動する。国民的アイドルグループのメンバーが誰と付き合っているだとか、 大御所俳優と その妻が離婚秒読みなのではないかとか、 ゴシップ系のページをいくつか読んでいたとき 、 偶然、指先が広告に 触れた 。いやらしいページだったら 面倒だな、 と バックボタンをタップしようとした瞬間、 画面がパッ と 変わってしま う 。

ーーあなたの呪い、 代行します。思わず、 指が止まった 。そして、 書かれた その見出しの内容を理解すると 同時に 、 私は吹き出してしまった 。国民的とも 言われる アイドルの熱愛報道のページに こんな広告を出したら 、 それはもう儲かるだろう 。「呪い、ねぇ ? 」あまり 非科学的なことは信じない性格ではあるけれど、 暇つぶしのような気持ちで画面を スクロールしていく 。

このサイト を 運営しているのは呪鬼会という 呪いサークルで、 そのメンバーたちは修行の ために やっているのでお金は取らないらしい。こんな広告まで出しているの に 無料だなんて 、 採算が取れるはずがないだろう。申し込みは簡単。ページ内の 入力フォーム に 、 呪いたい相手の 名前を 入力する 、 ただそれだけだ。随分昔に 流行った 診断サービスの ようなものだろうか。私はその フォーム に 上司と 同僚の 名前を 入力して 、 送信ボタンを タップした 。もちろん、 特に なにも 起こらない。「まー、 そりゃそうか」冗談でも 、 やってみると ちょっと スッキリする 。私はようやく 眠ることができた 。

いつもより 少し 夜更かし を してしまった にも関わらず、 寝起き も スッキリ していた 。スーツを 着て 出社すると 、 オフィスの 雰囲気がなんだか慌ただしい。
「なに、 どうしたの ? 」そう 声を かけると 、 同僚は少し だけ眉を 顰めて 言った 。
「今日は忙しくなるよ 」
「なんで? 」
「食中毒と 、 階段から 落ちて 骨折して 、 二人休み。 命に 別状はないらしいけどね」その言葉に 驚いて 、 私はオフィスを 見回した 。ここに いないのは。
「ざまぁみろ、 って 感じ かもね、 あなた からしたら 」私に ミスを 押し付けた 同僚と 、 こちらの 話も 聞かずに 一方的に 責め立ててきた 上司の 二人だけだ。その二人の机をそれぞれ指差して 首を傾げて みせると 、 しっかりとした 頷き が帰ってきた 。どちらがどちらかはわからないけれど、 どうやら 昨日揉めた 相手が二人とも 出社できない状況らしい。
「それにしても 、 すごいタイミングよね。 まるで、 あなたが呪いでも かけたみたいじゃない」そう言って 、 同僚は楽しそう にケラケラ と笑った 。けれど、 私は笑えなかった 。頭をよぎったのは、 昨夜ふたりの名前を打ち込んだ、 あのページ。食中毒も 骨折も 、 日常に十分あり得る 範囲の話だ。けれど。あのサイトは、 本物だったのだろうか。

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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