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大切な彼女、愛情は恨みへ

呪い代行呪鬼会

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「名前に住所に、コースの選択、と。これで、優香も僕の大切さに気づいてくれるはずだよね」 これは、私が呪鬼会に関わった最初のきっかけでした。人の噂や雑誌で存在は知っていたものの、自分の人生で関わる時が来るなどとは想いもしていませんでした。でも、私のことを裏切った彼女に気持ちを分かってもらうには、もうこの方法しかなかったのです。それほど、私は追いつめられていました。

ネットで検索して、ホームページの依頼項目から必要事項を入力して、送信。それはあっという間に完了しました。冷やかしは止めるように注意書きされていましたが、もちろん私にそんなつもりはなく、呪い代行の十万円さえ安価に思えたほどです。

相手は、山根優香。スマホのアプリで三カ月前に出会った三十三歳の女性です。そして、結婚の約束までしたのについ一週間前に、私達は別れたのです。 彼女と出会ったのは有名なアプリで、会員数もNO3に入る大手サイトでした。彼女の写真に一目ぼれをした私は、すぐにメールを送りました。でも、年齢も一回りは離れていたため、あまり期待していなかったのが事実です。でも三日後、彼女から返信が来た時は嬉しかったです。他愛もない会話がほとんどでしたが、今までの私はろくにラリーを続けることもできなかったので、楽しいと言いながら返事をくれる彼女とは確実に縁があるのだろうと信じていました。そしてメールを始めて二週間後、私と優香は初めて食事に行ったのです。
「正明さんですか?」 レストランの席で座っていると、彼女が声を掛けてきました。緊張で喉がからからだった私は慌てて立ち上がり、一礼したのを覚えています。
「やっぱり、面白い方ですね」 そう柔らかく笑う優香も、私の想像通りの女性でした。

彼女に惹かれたのは、外見はもちろんのこと、地元が近かったことや同じ業界で働いていることも理由でした。メールで話していると、今住んでいる家も近く、その上職場は私が以前勤めていたところに今の彼女がいることも分かりました。これを、運命だと思わない方が無理に決まっています。
「正明さんは、結婚したらどういう家具にしたいですか」
「同棲ってしたことないけど、楽しいのかな」など、彼女の口から溢れでる未来への希望は、今まで暗かった私の未来に一筋の光を指してくれました。そして、私は彼女と永遠に一緒にいられるのだろうと安心感に溢れていました。

恥ずかしい話ですが、私は四十半ばになっても、きちんとお付き合いをしたことがある女性は一人しかいませんでした。それも、社会人になってすぐの頃、会社の先輩に無理やりくっつけられたといっても過言ではありません。会話もろくに続かず、すぐに振られてしまったので、私の中で女性に対しての恐怖心が強く根付く結果となってしまったのです。それでも、四十を過ぎて人生の寂しさを感じ、重い腰を上げて始めたのがこのアプリだったのです。優香に会う前にも、頑張って数回メッセージをしたことはありましたし、ほぼメッセージをせずに突然会うという人も全くいなかったわけではありません。とはいえ、会っても会話はほぼ続かず、楽しいとは無縁のことばかりでした。

でも、優香は今まで会ってきたどの女性とも違い、話をしていてもとても楽しく、居心地のいい時間を過ごせたのです。
「子どもは好きですか?」 彼女はこんな質問をしてくることもありました。あれは寒くなってきた夜でした。映画を見て、食事をするという恐らくごく初歩的なデートだったんだと思いますが、私は緊張で映画の内容をほとんど思い出せないほどです。そして、彼女が飼っているというペットの猫を見るというのを口実に、家に遊びに行くことができたのです。

もちろん、女性の家に上がることは初めてでした。そして、隠す必要もありませんが、女性経験もほとんどなかったので、とてつもなく気を使う結果となりました。夜のお店に行ったことはある私ですが、ただ、それはお金を払って楽しませてもらう立場なので、どうすれば女の人が喜ぶのかというのを全く考えてきたことがなかったのです。彼女を大切にしたいという気持ちも重なって、私は彼女に触れることさえできませんでした。後悔していると言えば、そこも大きな原因です。 話が逸れてしまいました。つまり、私は彼女にリードされるままにデートをして、幸せを感じていたということです。

そして、彼女はその時、子どもが好きか、と聞いてきたのです。これは私と家族を作ろうとしているからに違いありません。その時の感情を私が表すとしたら、一瞬の怒りと、最大の至福、そしてほんの少しの恐れでした。なぜかというと、子どもができたらどうするか、などという重要な決断を私一人に投げかけられたようで腹が立ったのです。それは二人の問題であり、私の気持ちを試されているようでもありました。そのくせ、そんな言葉を貰ったのは初めてだったので、身体がかっと熱くなるような喜びも感じました。

そして、すぐに彼女とこれからの人生を共にするのかと思うと、まだあまりお互いのことを理解していない段階で、という戸惑いのような恐れがあったことも否定できません。そもそも、私はこんなにも優柔不断な性格が原因で、今まで良縁に恵まれなかったのかもしれません。でも、彼女はそんな私のすべてを温かく包んでくれていたのでしょう。

彼女と食事をするような関係になってから一カ月ほど経った時でした。その頃は、お互いの仕事の休みも合わず、私が連絡をしても返事が来ないことが続いていました。でも、私は今の時期だけ頑張ればという想いと、会えなくても気持ちは変わらないと言う安心感から、相手の忙しさを考慮して連絡を控えている日もありました。そんなある夜、突然優香から一本のメールが入ったのです。

「ごめんなさい。何度もメールをもらっても、迷惑です。」夜中でした。でも、スマホの灯りで目が覚め、なんの気なしに文面が目に入ると、飛び起きました。どういうことなのか理解できませんでした。案の定、すぐに電話をしてみると、彼女は一言、「もう会えない」と告げて来たのです。好きな人ができたんじゃないのか、と訪ねても、彼女は否定するばかり。それからは、何を言ってものれんに腕押しとはこのことでしょう。私が少し怒ってみても、悲しんでみても、一向に優香に響いているようには思えませんでした。あなたは違うと思った、それしか言ってもらえず、私の最大の恋は終わりを告げたのです。

あんなにも楽しげに声を上げて笑い、あんなにも私と一緒にいることが幸せだと訴え、あんなにも食事をごちそうしたのに。彼女の顔を思い出すと、初めこそ涙が溢れて来て仕事が手に着きませんでしたが、どこかで期待も残っていました。きっと彼女は私の元に戻ってくるのだろう、と。

そんな日々を重ねることに耐えられず、私は優香の職場にいる元同僚を呼びだしました。ビールを煽りながら、私は胸の内を明かします。
「優香はどうしているんだ。俺は、できればやり直したいと思っていたんだ。でも、こうなったらもう無理だと思う。でも、不幸になればって思ってしまうのは仕方がないんだ」
「結局は、合わなかったっていうことなんじゃないかな。もう気にするな、次へ進めばいいだろ」 そういう元同僚は、これがよくある話だ、とでもいうように冷静でした。
「結婚するつもりだったんだ」
「え?優香ちゃんがそう言っていたのか?」
「詳しくは話していないけれど、将来のことも含めて、ね。でも子どもは好きか?と聞かれた時に、俺は何も言えなかったことを後悔しているんだ」
「は?」
「俺は、むしろ彼女に重荷に感じて欲しくなかったから、結婚のことは気にするなっていったよ」
「へ?結婚したくなかったのか?」
「いや、もちろんしたいよ。でも俺たちは始まったばかりだったんだから。それより、彼女にはちゃんと考えて欲しかったんだ」
「うーん、まぁそのくらいの年齢だと敏感だからな。もう少し年齢が上の人がお前にはあっているのかもな」

私は優香がいいんです。でも、もうそれ以上の言葉は飲みこみ、私は日本酒を煽って帰りました。
「お前、だらしない男だな。完全に嫌われているぞ、それ」帰り際、元同僚が投げかけた言葉はその時、私の耳には届いていませんでした。しかし、それから三日後のことでした。私は、優香の顔見たさに、彼女の職場に行ってみたのです。もちろん、中に入る訳はありません。会社の門のところで待っていると、予想を越えた出来事が起こりました。彼女と一緒に出てきたのは、なんと元同僚だったのです。
「あ、あいつっ!」 いけしゃあしゃあと私に彼女を諦めるよう促しておきながら、ちゃっかり付き合っていたとは!しばらく二人の後をつけ、居酒屋に入ったことを確かめると、私は一目散に家に帰りました。

そして、呪鬼会のサイトへアクセスしたのです。私がサイトから必要事項を入力し、自宅に到着した用紙で入金を済ませてから十日が経ちました。呪い代行を頼むことは初めてだったので、どのように効果が出るのかは定かではなかったものの、私はどんな形であれ、二人が不幸になってくれればよかったのです。私もプライドがあるので、二人に直接に怒りをぶつけるつもりは毛頭ありません。だからこそ、呪鬼会に依頼をしたのです。とはいえ、優香の動向が気にならないと言うのも嘘になります。その感情の矛盾に疲れていました。

そして三日経っても、優香に何かがあったかは分かりませんでした。呪い代行は確証もないし、個人差もある。結論はいつになるかもわからないだろう、と半ば諦めてもいました。それでも二人に対しての恨みが消える訳ではなく、無意識に元職場に足が向かっていました。その時です。再び、優香と元同僚が並んで歩いているのが目に入りました。 「あいつら……」 私の怒りは沸点に達しました。自分を捨て、元同僚の隣で笑っている優香。足は自然と二人の後を追っていました。

と、スマホを探してポケットを探りながら歩いていた時です。きゃーっと大きな悲鳴が耳に届いた瞬間、私の頭は火がついたのかと思うほどの熱さを感じ、そして強い衝撃で身体は地面に倒れ、すぐに意識を失ってしまいました。 目を開けると、そこは小さな小部屋でした。ベッドに寝かされていることは分かった物の、どこか感覚のおかしさに違和感が残ります。
「あ、気がつかれましたか?」 顔を覗きこんできたのは白衣を着た女性だった。 「……ここは?」 しばらく寝ていたのか、掠れた声しかでません。そして、起きあがろうとしたのに身体に力が入らないのです。
「病院です。もう大丈夫ですよ。先生を呼んできますので、少しお待ちくださいね」

自分が怪我をしたのは分かったものの、最後に自分がどこにいたのかをあまり思い出せませんでした。そして、どこか天井を見上げていても、ぼんやりとしか見えないことを不思議に思いました。しばらくして現れた医師は、迷うことなく、そして決して同情する様子もなく淡々と事実をちげていきました。その衝撃は、今でも忘れることはできません。あの時、私の真後ろで車の接触事故が起こったそうです。私の頭をめがけて飛んできた車の破片と燃えるタイヤ、すぐに車体も暴走して向かってきたそうです。事故にあったのは私一人。2台の車の運転手でさえ、軽症だったそうです。

それなのに、私の体のあちことに破片が刺さり、車体につぶされたおかげで、私は両目の視力を極度に失い、両足は切断されてしまったと言うのです。もう仕事に復帰することも叶わないでしょう。 ただ、あの夜を思い出すと同時に、一つの疑問が生まれました。元同僚と優香は事故に巻き込まれなかったのだろうか、と。看護師さんに頼んで携帯を借り、病室から元同僚のいる職場に掛けてみた私は、事情を話すと、大丈夫かと告げた後に続けた彼の言葉に唖然としたのです。
「俺たちは事故があったのには気づいたけど、まさかお前が、とは思わなくて」
「そうだよな……。お前、優香のこと大切にできるのか」
「……は?俺達、普通に職場の仲間だけど」
「そんな訳ないだろ。お前らが付き合って、一緒に飯食うところ見たんだよ。一生許さないからな」
「ふざけるな。同僚なら、帰りがけに飯も食うさ。お前が可哀想だから黙っていたけど、彼女に相談されていたんだよ。付き合ってもいないのに、彼氏ヅラされて困っているって」
「嘘だ……彼女は俺のことを愛してくれて、映画も見て」
「ガキの恋愛かよ。逆恨みは大概にしろよな」

それだけ言うと、わざとのように大きくため息をつき、元同僚は電話を切りました。 確かに、恋愛に不慣れな私は彼女に対してうまく愛情を示せなかったのかもしれません。まだ、間に合うでしょうか。

……そういえば、呪い代行は間違った使い方をすると跳ね返ってくるとサイトに書いてありましたが、まさかこういうことなのでしょうか。 ただ、私は今日も病院のベッドの上でサイトを開いてしまっているんです。私を傷つけた車の運転手たちのことは呪っても構わないでしょう?

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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