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良心と覚悟

呪い代行呪鬼会

私はハルミ。どこにでもいる平凡な会社員。 私には今、許せない人がいて、その人をどうにかして罰を与えたいと思っている。 だからこうして、パソコンで呪い代行サイトを探している。 今この瞬間も、先輩への恨みで頭がいっぱい… ユウヤ先輩… どうして私に振り向いてくれないの。なんで他の人を好きになったの。 私、あんなに先輩のためにがんばったのに。 先輩好みの服装にして、先輩好みの明るい性格を装って。 それでも私から離れていくなんて。 許せない… どうしても手に入らないというのなら、いっそのこと……!

見つけた! 『日本呪術研究呪鬼会』かあ…なんかあからさまな名前でうさんくさいサイトだな。 でも検索では上位に上がってたし、実績もあるみたい。
「最短三ヶ月で効果を実感できます」……!? 本当なのかなあ。 でも運営者の住所や電話番号まで乗っている。LINE通話でも相談にのってくれるらしい。 意外とまともなんだな。ひとまず問い合わせてみよう。

「日本呪術研究呪鬼会」は日本各地で活躍する呪術研究者たちが共同で運営しているサイトだった。 代表者の名は、宗像となっている。 呪いや呪い代行に関する相談は無料で行っているとのことだった。 ハルミは恐る恐るサイトに記されていたLINEにメッセージを送ってみた。

ハルミ「呪い代行に興味があります。相談に乗ってもらえますか?」 興味本位と不安が重なる中、返信はすぐにやってきた。
原田「かしこまりました。日本呪術研究呪鬼会原田でございます。どのようなご相談でしょうか。」
ハルミ「呪い代行をお願いしたいのです。料金はどうなっていますか?」
原田「ご相談の内容によります。個人個人のご事情に慌てての呪術の組み立てとなりますので、まずはお話をお伺いしたいと思います。」

ハルミは呪鬼会の呪術の効果に疑念も抱きながら、胸の中の思いをたどたどしく、だが、全て原田に打ちあけた。 自分がいかにユウヤを愛しているか、それでもユウヤが自分の愛にこたえてくれないか。 彼への愛情と憎しみが入り組み、自分でも何を求めているか、原田という自分自身の鏡像に問いかけているようだった。
原田「さて、ハルミさんが呪いたい人、ユウヤさん。振り向いてくれない彼のことが許せない、と、そういうことですね。」
ハルミ「はい。毎日毎日彼への怒りで仕事も手につかないし、食事も喉を通りません。すごく、苦しいんです‥」
原田「なるほど。どうして彼に対してそこまで怒りを感じるのでしょう?」

原田は、呪術師というよりもカウンセラーのようだった。 私の怒りを分析したり、仕事の環境について質問してきたり、私の生活状況、人間関係を聞き出してきたり。 私は、そんなことのためにあなたと話してるんじゃないのに!
ハルミ「とにかく彼のことが許せないんです!この怒りを身をもって思い知らせてやりたい!手を貸してください原田さん!お願いします!」
原田「そうですか。わかりました。 私たち日本呪術研究呪鬼会に所属する呪術師たちは各々独自の呪術を用います。あなたにふさわしい呪術師をご紹介いたしましょう。呪い代行の契約はこちらで締結可能ですがいかがでしょうか。なお、重ねて申し上げますが、我々の日本呪術研究呪鬼会の呪術、呪術師たちは文字通り命を懸けて呪術に取り組みます。興味本位や覚悟のないご依頼はあなたの身になりません。呪術へ真摯に向き合う覚悟がおありならご依頼を承ります。」
ハルミ「はい。誓って私の覚悟は真剣そのものです。どのような結果でも呪術師の先生への感謝を忘れず、受け止めたいと思います!」
原田「わかりました。それでは契約は締結されました。あとはこちらに全てお任せいただき、平穏にお過ごしください。」
それが最後のメッセージだった。
ハルミ「…本当に大丈夫かしら…」

10日後。 ユウヤ先輩が、会社を休んだ。 もしかして、本当に呪いの効果が…? ハルミは同僚でありユウヤの今の彼女に声をかける。
ハルミ「ユ…ユウヤ先輩どうしたんだろう。今日は大事な会議があるのに」
同僚「ユウヤさんね。今朝は”体が重い”とか言って、ベッドから出られなかったの」
ハルミ「えっ?今朝?ベッド?いったいなんでそんなこと…」
同僚「ああ、えっと…私たち今、同棲してるんだ。まだ話し合ってるところだけど、結婚する予定も…」
それを聞いて、ハルミの恨みはさらに増していく。 結婚なんて…許せない。私をさんざん振り回して、無視して、そんな人がのうのうと幸せになれるなんて絶対に許せない…!

その翌日。 ユウヤは元気に出社してきた。 熱で休んだだけだったという。
ハルミ(な、なんだ…思ったほどのダメージじゃなかったんだ。でも呪いは成功したみたい。呪い代行って侮れないんだな)
会社の人たちはユウヤを気にかけ、声を掛ける。
「ユウヤくん、熱は大丈夫だった?」
「急に休むから心配したよ」
「会議は何とか無事に終わったよ」
ユウヤ「すみません、気を付けます」
ハルミ(そうやって気楽に居られるのも今の内よ。次はもっと痛い目に合わせてやるんだから…)
ハルミは日本呪術研究呪鬼会へ再びメッセージを送る。
ハルミ「ユウヤさん、熱を出して会社を休みました」
原田「そうですか。呪術の結果にご満足いただけましたか」
ハルミ「でも1日で治っちゃって。正直、思っていたほどのものではなかったなって…」
原田「呪術はあなたの思いを倍加させてあなたの希望へと近づけるものです。」
ハルミ「……あの程度じゃ私、満足できません」
原田「それ以上をお求めになる場合は、あなたの覚悟以上のものが必要となってきます。それはとても危険なことです。これ以上はおやめください」
ハルミ「その危険な呪術をお願いしたいです。もっと、私の苦痛をそのまま叩きつけるような」
原田「ハルミさん、そもそもあなたは何を望んでいるのでしょう?もう少し、心の内を聞かせてくれませんか。話せば楽になることも…」
ハルミ「話して済むようなものじゃないんです!ただ彼を呪いたい。それだけなんです」
原田「 恐れ入りますが、最初にご説明したとおり、呪術師は命を懸けて呪術に向き合いました。その結果をまずは受け入れてはいかがでしょうか。これ以上の呪術をお望みならば、依頼の前にあなたの気が済むまで話を聞くことから始めさせてください」
ハルミ「そうですか。わかりました。では他の呪い代行サービスに依頼します。☆@〇▽さんに」
原田「……。余計なお世話かもしれませんが、それはおすすめしませんよ」
ハルミ「でも原田さんの力では私を助けられない。そうでしょう?私はもう、呪い以外ではこの憎しみを落とせないんです。だからできることをやるだけ。…この度はありがとうございました原田さん。失礼します」
ハルミは呪鬼会のLINEアカウントをブロックした。

時々こういう依頼人がやって来る。 何もかもを誰かのせいにして、他者を呪い、それで自分自身を苦しめている。 私たちはそういう人を助けたい。 本当に憎しみで満たされた人を、呪術で助けるのは難しい。だから話を聞こうとしているが…そういう人たちにかぎって、私たち呪術師の声は届かない。 ☆@〇▽に依頼する…近年は素人が呪い代行を掲げることも増えてきた。 かける方もだが、依頼するほうにも危険がある。 気軽に呪いをかけようとすると必ず呪い返しが起こるということ…彼女はどれほど理解したのだろうか。 原田はブロックされたLINEアカウントを眺めながら心の中でつぶやいた。

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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