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監禁部屋

呪い代行呪鬼会

[su_youtube url=”https://youtu.be/y_MtlonwPHU”]

……この場所から脱出するには、一体、どうすればいいのだろう? 気付けば、私は知らない人の家の中に閉じ込められていた。 私は記憶が混乱していて、自分が何故、此処にいるのか分からない。 漠然と自分の名前が由美であって、大学に通っている事くらいしか思い出せない。何故、こんな場所にいるのか…………。頭が酷く痛い。記憶が混乱している。 スマホの電源は付いている。 だけど、充電が少ない。

どうやら、私の脚には枷が付いており、長い鎖で縛られているみたいだった。 部屋の所々は埃っぽく酷い臭いが漂っている。 鎖を伸ばして部屋の扉を開けてみると、下り階段が見つかり、どうやら自分は最低でも二階以上の家の中にいる事が分かった。下の階は異様な臭いがして、羽虫のようなものが飛び回っている。 何とか抜け出さなければならない…………。 私はスマートフォンを弄る。 そして、ネットで何とかして助けを募ろうとする……。

私はSNSをやっていない……。 そもそも、私は自分が一体、誰なのかさえも分からない。 『呪い代行日本呪術研究呪鬼会』 私はふと、その奇妙なサイトに辿り着いていたのだ。

短大の友人である由実が失踪して十日程、経過した。 彼女に連絡を取っても音沙汰がない。 TwitterやFacebookという媒体も更新が止まっている。 最近、女子高生や女子大生が失踪する事件が相次いでいると聞く。 私の友人である由美も、何かの事件に巻き込まれてしまったのだろうか……。 私は不安で仕方が無かった。 ただ、今は祈るしかない。 彼女が無事、帰ってくる事をだ…………。

私は彼女の顔を思い浮かべる。 大学内でどんな会話をしたか、ランチの時、一緒に何を食べたか。そう言えば、近くのハンバーグ屋さんに一緒に行く約束をして、約束が叶っていない。  私は気付けば、縋るようにネットを検索していた。 探偵にでも頼めばいいのか。けれど、探偵を雇うのは高いと聞く。 警察には既に届けが出ていると、由美の親から聞かされた。

私に何か出来る事は無いのか…………。 人探しに占いでもしてみようか、そんなもので人が見つかるのか…………。 占い…………。人探し…………。 私は検索しているうちに何故か“呪い代行日本呪術研究呪鬼会”という場所に行き着いた。 何となく、呪鬼会という禍々しい響きとHPの内装に惹かれたからだと思う。 そのサイトにはこう書かれていた。 “人探しも承っています。貴方は探したい相手の居場所を突き止めたくありませんか?” 気付けば、私はそのページをクリックしていた。

数日後の事だった。 私は“呪い代行日本呪術研究呪鬼会”からメールを受け取った。
“特殊な事情ですね。本当は呪いの標的となるターゲットを探すサービスなのですが、事情が事情なので私達の側で今回、特例として承りますしょう。どうやら、貴方のご友人である由美さんは異常者に監禁されているみたいです。”
そんなメールが送られてきた。

メールの内容は続いていた。
“もし、貴方も協力して、その異常者の手掛かりになるように行動して戴ければ、私共は由美さんの捜査に協力しますよ。いかが致しますか?ご了承する場合はご連絡ください。”
私は頭がおかしくなりそうになった。 ただ、由美を探しには藁にも縋るしかない。 私は了承のメールを呪い代行日本呪術研究呪鬼会に返す。
“由美さんの位置は大体、分かります。詳細のメールを送りますので、向かってください。それから”呪物“に使う道具を貴方の家に送ります。明日には届ける予定です。”
そう返ってきた。 私は少し不気味に感じながらも、このメール主に従う事にした。

翌日、私の家の郵便ポストに呪い代行業者を名乗るものから郵便が送られてきた。中を開けてみると、藁のような植物で編みこまれた小さな人形が入っていた。注意書きの用紙も入っており
“ご友人と貴方をお守りし、それから道先案内をする為にこの人形を肌身離さず持っておくように”
そう書き記されていた。

私は人形に触れて、握り締める。 すると、頭の中に映像のようなものが浮かんできた。 パシュ。パシュ。視界がゆらめき変わっていく。 そこは、真っ暗な部屋の中だった。 汚らしい部屋だ。古雑誌などが乱雑に積まれている。家具も置かれている。 由実の姿があった。 彼女は脚に枷のようなものを嵌められて、鎖で繋がれている。 とても不安そうな顔だ。 私は絶叫しそうになった。 視界が途切れる。 私は今すぐにでも、彼女を探しに行こうと決意した。 もう一度、人形を握り締めた。 すると、再び映像が浮かび上がってきた。 そこは歩道橋の上だった。 私はその場所を知っている。 私の家から四駅程離れた場所。大きなデパートの近くだ。

この辺りに由美が監禁されている場所はあるのだろうか?……それ以上の映像は浮かんでこない。頭の中で何かを理解する。つまり、その場所にまず行かなければならないのだ。私は財布とスマホを持って、着替えて、トイレを済ます。そして何度か深呼吸を繰り返す。 私はその場所へ向かって走り出していた。

結局、電車に乗った為に走ったのは、無駄に体力を消耗しただけだった。 私は映像で見えた歩道橋の上に立っていた。 この辺りは繁華街になっている。 少し離れた場所にマンションや一軒家などが並んでいる。 私は再び、人形を握り締めた。 パシュ。パシュ。視界が揺らめいていく。 映像が見え始めた。 そこは、繁華街から少し離れた路地だった。 路地の先には、一軒家が幾つも並んでいる。 その路地に入る為の看板が幾つか見えた。 うどん屋さん、コンビニ……。煙草屋さん。 私はその辺りの区画を探す。 歩道橋から辺りを見渡すと、すぐに見つかった。 うどん屋さんと、コンビニと、煙草屋さんが並んである場所。 その辺りの路地から入れば、映像の場所に辿り着けるのだろう。

私は気付けば、再び、走り出していた。 うどん屋さんの前に立つ。 すると、先ほど見えた路地が見つかった。 私はその路地に入り込んでいく。 この先の映像はよく分からない。 私は人形を取り出して、再び、握り締める。 また、新たな映像が見えた。 そこは一軒家だった。 少しだけ外装が古びている。 築数十年のまま、外装を直さなかったのだろう。 そこまで行くだけの道のりのような映像が頭の中に、断片的に映り込んでいく。私は気付けば、歩みを進ませていた。とにかく、友人の由美を助けたい。そればかりが頭の中に過ぎっていた。

私は走る。 無我夢中で走っていた。 その家の中に、おそらく、由美は監禁されている。 私は何度も、路地を曲がる。 十数分程、経過した事だろうか。 私は頭の中で見えた一軒家に辿り着く。 私はその家のチャイムを押した。 中は静まり返っている。 三階建てで、カーテンは閉まっていた。 私は何とか、中の様子を覗けないものかと、その家の周りを巡った。 一階の部屋が覗ける庭が見つかった。 庭の向こうには縁側があり、そこに窓ガラスがある。 窓ガラスの向こう側に映る家の中は、ゴミ屋敷と化していた。スーパーの弁当箱やら、空のペットボトルやら、カップラーメンの空の容器やらで溢れかえっている。羽虫が飛び回っていた。 私は思い切って、その家の中へと侵入する事に決めた。

まず、玄関から中に入ろうとする。 一階には気配を感じない。玄関の鍵は閉まっている。 私は排水管などを使って、二階によじ登る事にした。 こんな事をするのは、高校の体操の授業以来だ。私は不思議と上手く、排水管などを使って、二階のベランダに侵入する事が出来た。 その後、こつこつこつ、と、窓を叩く。
「由美。この中にいるの?」 私は小さな声で囁くように訊ねる。
「もしかして、弥生ちゃん?」 部屋の中からは、由美のかぼそい声が聞こえてきた。
「脚を拘束されているんでしょう?」 私は訊ねる。
「うん………………」
「この窓は開けられる?」
「ムリ……。そこまで手を伸ばしても届かない…………」

私はそれを聞いて、自分の所有物を漁る。 固い筆箱が入っていた。 学校の授業で使うものだ。 私はそれで、何度も、中から鍵を掛ける部分の辺りに向けて筆箱を叩き付けた。 何度か、筆箱で叩いていると、窓はヒビ割れ初めて、ついに割る事が出来た。 私は怪我をしないように、手を服で包むと、割れた部分に手を入れて中の鍵を開けた。そして、私はこの家の二階に侵入する事が出来た。
「ははっ……。空き巣になれるな、私…………」

私はそう自嘲の声を上げながら、中に入る。 部屋の中は猛烈な異臭を放っていた。 中には、脚を枷で拘束されて、鎖によって繋がれている由美の姿があった。 鎖の先は、鉄製の棒のようなものによって繋がれている。 その棒は天井と床と見事に一体化していた。
「由美。何か、変な事されていない?その…………身体を触られたとか…………」
「…………。分からない。覚えていないの…………」
「鎖、どうにか、壊せないかな?」
「私は何とか、壊そうとしたけど、駄目だった…………」

私は考える。 スマホで警察に電話する事に決めた。 不法侵入を問われるだろうが、かまいやしない。 こうやって、生きた由美と会えたのだ、私が警察から多少の罰を受けるくらい、どうって事は無い。 当然の事だった。 一階で物音がした。 何者かが玄関の鍵を開けようとしている音だった。 私は咄嗟に、二階の部屋の扉の鍵を閉める。 そして、ベランダから家の中へと入ったものの姿を確かめる事にした。 どうやら、この家の主は、既に家の中へと入ったみたいだった。
「どうしよう…………」 由実は不安そうな顔をしていた。
「私も、分からない。どうすればいいか…………」

家の主は、ごそごそと、一階を漁っているみたいだった。 ゴミはかき分けられている音がする。 何かを持って、家の主はギシィ、ギシィ、と階段を登ってきた。 私はどうすればいいか、考える。 私だけでも逃げる…………? そんな事、出来るわけが無い。
「弥生ちゃんだけでも、逃げて」 由実はか細い声で言った。
「由美を置いて逃げられないよ。とにかく、何か考えよう。二人で逃げられる方法をっ!」

私は二階の部屋の中にあるものを、片っ端から、ドアの前に置いた。 机。椅子。本棚。 それらで籠城する。 どうやら、家の主は二階の扉の入り口の前まで登り終えたみたいだった。 がちゃがちゃ、がちゃがちゃ、がちゃがちゃ、と、ドアノブが回される。 その後、しばらく、静まりかえる。 逆に、とてつもなく不気味だった…………。 私は由美と顔を見合わせる。 瞬間。 大きな破壊音がした。 斧の先端が、木の扉から突き出していた。

何度も、何度も、斧は振るわれる。 扉の裂け目から、家の主は顔を出して、部屋の中を覗き込んでいた。 その顔は、とてつもなく不気味だった。 年齢は四十代くらいだろうか。 でっぷりと顔の肉付きはよいが、まるで腫瘍のように顔にぶつぶつとイボのようなものがある男だった。男は歯茎を剥き出しにして涎を垂らして、私と由美を見渡していた。男はくちゃくちゃと、何かを噛んで吐き出す。それはどうやら、女物の下着みたいだった。 ざしゅ、ざしゅ、ざしゅ、ざしゅ、と、再び斧が振るわれる。

ドアは破られ、男がバリケードも壊して中へと入ってくるのは時間の問題だろう。 私は何か武器は無いかと、もう一度、部屋の中を探した。 カッターナイフの一本でも入っていればいい。 私は自分のバッグの中を覗いた。 すると、あの人形が出てきた。 私はそれを握り締めていた。 “呪い承りました。” 私の頭の中で、何者かが囁いていた。 斧の激しい音が続いていく。 机などのバリケードなどが蹴散らされていく。 いよいよ、私達二人の前に男が斧を振り降ろそうとした、その瞬間だった。 斧は胸を掻き毟りながら、暴れ回り、そのまま地面に崩れ落ちる。 そして、そのままピクリとも動かなくなった。

私のスマホには、一通のメールが届いていた。 “呪い成就しました。” その一言のメールだった。 私は男の手から、斧を取ると、由美を拘束している鎖へ向けて何度も振り下ろした。女の細腕だから、当然、とても両腕と肩が痛い。それでも、私は懸命に斧を振り下ろし続ける。何度も鎖に振り下ろしていて、やがて、鎖は引き千切れた。 私は由美と一緒に、ベランダから外へと脱出した。 そして、その後、警察に電話を入れた。

由実はしばらくの間、病院で入院する事になった。 今日が退院日だ。 私は彼女の病室に向かう事にした。 由実を監禁した男は、四十代後半の無職の男性だった。 両親を亡くし、親の遺産で生活していたらしい。 精神に異常をきたしていたみたいで、まともな生活を送れなかったみたいだった。 また、三階の部屋の中からは、二人の女性が白骨死体で見つかったそうだ。 おそらくは、由美の前に監禁していた女達だろう。

私は、由美が無事だった事に、ほっと胸をなでおろす。 それにしても『呪い代行日本呪術研究呪鬼会』。 由実も、そのサイトに助けを求めていたらしい。 結果として、サイトの主いわく、男を“呪い殺す事”に成功したのだそうだ。
“本来は、こんなご依頼は無いんですけどね。今回は特別に行いました。お代もいりません。連続監禁殺人事件を解決出来ましたし”

そのような趣旨のメールが、日本呪術研究呪鬼会から返ってきた。
「それにしても、由美。大丈夫?監禁されていた時のトラウマとか蘇らないの?」
「うん。悪夢にうなされる。でも、そうだ。気分転換がしたいな……」 由実は笑う。
「一緒に行きたかったハンバーグ屋さんに行こう?弥生ちゃん!」
「うん。そうしよっか、由美に元気が少しでも戻るなら」 私達二人は、そうして、病院を跡にするのだった。

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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